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学会発表ナビ

アドバイス STEPⅢ

掲載日:2014/09/03


発表の構成要素

 発表=スライド作成と考える方も多いのではないでしょうか。確かにスライド作成は重要であり、多くの労力を費やします。しかし、発表とはPresentationであり、学会発表の目的は明確なメッセージを聴衆に伝えることです。学会発表におけるメッセージとは「結語」にあたる部分であると考えられます。聴衆に発表を伝えるために、肝心なことはきれいなスライド作りではありません。スライドを視覚的な補助として、原稿や音声を聴覚的に伝える手段として自身のプレゼンに磨きをかけましょう。以下に発表の構成要素について示します。

 


発表の構成要素8)

 充実した内容
 見やすいスライド
 予演会
 効果的な発表技術

 


演題発表要項の確認

 


まずは、演題発表要項を熟読して、発表時間やパワーポイントの形式、ポスター発表であればポスターのサイズを確認します。発表時間からスライドの枚数などを検討します。スライド1枚につき30秒から1分程度の内容が良いとされています。口述発表時間が7分であるならば7枚から多くても14枚以内となるように心掛けましょう。Power Pointでは、形式によっては互換性が損なわれます。せっかく作成したスライドがずれてしまわないように、しっかり確認しましょう。

 


充実した内容

 


聴衆があなたの発表に期待しているものは明日の臨床に役立つ「経験」や「メッセージ」です。ナビゲーションシステムStepⅠ、StepⅡでも述べてきましたが、メッセージにあたる結語が論理的に説明できるように今一度、症例の理学療法評価や治療が客観的に述べられているか、適切な参考文献が用いられているか情報を整理しましょう。一方で、ただ多くの情報を述べることが伝わることではありません。情報が過多となると、本当に必要な情報が聴衆の頭に残らなくなるリスクもありますので必要な情報を選択しましょう。

 


絵コンテ(アウトライン)の作成がおすすめ!

 


 さて、いよいよ発表に向けてポスターやスライド作成と意気込んでパソコンの前に座る前に、ちょっと待って、焦ってはいけません。慣れないうちは絵コンテがおすすめです。絵コンテとは、アニメーションを作成するときの下書きのようなものです。いきなりパソコンでスライド作成を始めてもなかなか内容がまとまらなかったり、図や表の調整にばかり時間がかかったりして疲れてしまうことはよくあることです。そこで、はじめは紙とペンを使って自由に書きたい内容を下書きし、発表したい内容の全体構成を展開します。おおよそのアウトラインが決まったら、パソコンでその通りに作成し始めるのが効率的です。

 


見やすいスライド作り

 


 抄録の構成をもとにスライドを作成しますが、文章部分をそのまま載せると文章の量が多くなってしまい、読み手にとっては読み疲れてしまったり、ついていけなかったりします。文章の視覚化や図式化、または箇条書きスタイルなどの工夫をして読み手にとって理解しやすいようにします。 スライド1枚あたり6、7行でおさめるように心がけると読みやすくなります。配色は黒、濃い青などの暗い背景には、白、黄色などの明るい文字を用いることが基本的です。白い背景に黄色や赤色の文字は、パソコン上では見えても、暗い会場内の遠い席からでは全く見えないこともあるので気をつけましょう。同様に文字のサイズは出来るだけ大きく28ポイント、少なくとも24ポイントを維持すると良いでしょう。

 


予演会

 


 予演会とは言葉の通り予行演習会であり、職場の方々の前で本番さながらの発表練習をすることを言います。このメリットとしては、本番で発表することの慣れだけでなく、自分一人では気付かない点(スライドの誤字脱字、時間と内容のバランスのチェック、質疑応答練習など)の指摘を受け、発表の完成度を上げていくことができます。デメリットとしては、せっかく作った資料にたくさんの指摘を受け、本番前に嫌気が指すことがあります。しかし、どんな熟練者も発表を成功させるために行う行程ですので強い気持ちでたくさん予演会に励んでください。

 


効果的な発表技術

 


 効果的な発表のための技術的ポイントを以下に示します。

 ・原稿の棒読みをやめる
 ・メモ書きを用意する
 ・スライドを見ながら話す
 ・言葉の切れ間で聴衆を見る
 ・平坦な口調ではなくメリハリをつける
 ・左手→マイク、 右手→ポインター、背筋を伸ばす
 ・発表および質疑応答を楽しむ

 


 効果的な発表のためには、原稿は見ずに行える方がもちろん良いですが、初めての発表に緊張で頭が真っ白になってしまうことも考えられます。その場合は、発表の要所を書き示したメモを用意しておきましょう。発表のきっかけが掴めれば話し始めることが出来るはずです。  原稿は作らず練習した方が効率的でしょうか。いいえ、原稿は作った方が良いでしょう。手間にはなりますが、原稿があれば練習のたびに文章量の調節や用語の統一を確認できるため修正が容易になります。文章量は1分間で300から400字以内が望ましいです。それ以上は聴衆に発表が間延びした印象を与えます。  聴衆に伝えるために平坦な口調は避けましょう。話し方でわかりやすさに差がでてきます。例えば、発表の中で重要な話はその前後に間をとって、ゆっくり話すようにするだけで、重要なポイントを際立たせる効果があります。 。

 


ポスターの作成
 ポスター発表の基本的手順を示します。

 


ポスターの参考フォーマット

 

 

ポスターテンプレート ダウンロード

 

ポスター発表の特徴

 

ポスター発表の特徴は、会場にポスターが設置されていることです。演者が口頭で説明できる時間は限られていますが、口述発表と異なり、発表時間以外でも会場を訪れた聴衆にポスターを見てもらうことが出来ます。したがって、ポスター自体が演者に代わって語る必要があり、閲覧者が見ただけで内容が分かるように十分な情報を盛り込む必要があります。実際に発表では説明しないとしても、内容を伝えるために必要な情報は記載しましょう。さらに、発表後、内容に興味をもった聴衆とその場でゆっくり議論できることもポスター発表の特徴です。場合によっては、ポスターを縮小印刷したチラシを準備して、内容に興味を持ってくれた方に渡せるようにしましょう。

 

口述発表とポスター発表

 

みなさんは口述発表とポスター発表の違いについて考えたことはあるでしょうか。ただ単にスライドとポスターの違いでしょうか。学会を創造する中で、我々はこの違いを「口述発表はロジカルシンキング、ポスター発表はラテラルシンキング」に当てはめられるのではないかと考えました。ロジカルシンキングには演繹(えんえき)的思考と帰納的思考が含まれており(図1、表1)、「Why So」「So What」の向きが特徴となります。演繹的思考は間違うことはありませんが、帰納的思考の方は絶対正しいとは言えないことがあります。演繹法と帰納法は相互の到達点が相互の出発点となり、到達点として獲得した論理を相互検証することで、より確実な真理に近づくことができます。両者は対立するものではなく、状況により選択する手段であり、適した方を使い分けてこそ真価を発揮します。

 

図1 ロジカルシンキングの概念図 表1 演繹(演繹)的思考と帰納的思考の例

 

演繹的思考:一般的な前提から個別的な結論を得る方法
例)人は必ず死ぬ→Aは死ぬ→だから私もいつかは死ぬ
帰納的思考:個々の事象から一般的な原理を見出そうとする方法
例)Aのネコはネズミを追いかける。Bのネコもネズミを追いかける。→だからネコという生き物はネズミを追いかける生き物だ。

 

一方、ラテラルシンキングはいわゆる水平思考と呼ばれ、物事を中心から外に広げてみる思考となります。ロジカルシンキング(論理思考)が左脳型の論理的な思考法だとすれば、ラテラルシンキング(水平思考)は右脳型の新しい価値を生み出す思考法です。ラテラルシンキングの基本は、①前提を疑う ②新しい見方をする ③①と②に組み合わせる の3つとなります。それらに沿って考えることで創造的なアイデアや目からウロコの問題解決策を生み出せるのです。その時に必要なのが、鳥瞰、虫瞰、魚瞰といった物事を様々な方向から捉える視座となります(図2)。

ロジカルシンキング、ラテラルシンキング、どちらも馴染みのない言葉かもしれません。しかし、理学療法を深く、広く発展させていくためにはどちらも必要な思考と考えます。自身の発表内容が、事象の証明を目的としたロジカルシンキング、それとも新しい価値を生み出すアイデアを目的としたラテラルシンキング、どちらに当てはまるのか、みなさんも考えてみてください。その思考の変化で、学会の発表の場が、明日からの臨床が、そして、神奈川の未来が変わるかもしれません。

 

図2 ラテラルシンキングの概念図

 

結語

 

最後に、発表および質疑応答を楽しむ心構えを身に付けてください。良い発表は質問されてこそだと思います。臨床的疑問とその解決について自分の考えが伝わった時、必ず聴衆は応えてくれて有意義な議論の場となります。苦労して作り上げた自身の作品がその場でさらに深まっていくのはとても嬉しいことだと感じるはずです。我々も頑張って初めて挑戦してくれたあなたの発表に対して、建設的な議論な場を提供できるように精一杯準備を進めています。発表するまでが成功なのではなく、願わくはすべての発表者が本学会で発表して良かったと感じられたならこのナビゲーションシステムは大成功になるのだと思います。

参考文献

1)  宮本真明:研究のすすめ 臨床での私の取り組み―今日からはじめる臨床研究.理学療法 技術と研究4116-202013

2)  理学療法ケーススタディ良好/難渋例の臨床 網本和編著 中外医学社pp1-62008

3)  平岡浩一:臨床研究の実際(3)-症例研究.In:内山靖(編).理学療法研究法.医学書院.東京.pp56-662006

4)  尼子雅美,宮本真明:小脳出血により小脳脚の損傷を伴った症例に対するアプローチ -シングルケースデザインによる検討-.第47回日本理学療法学術大会抄録集:Bf0851supple2012

5)  雨宮耕平,宮本真明,竹井仁:腸腰筋・多裂筋エクササイズがTHA術後の姿勢制御に与える影響 ~シングルケースデザインによる検討~.第29回神奈川県理学療法士学会抄録集.201241supple

6)  Barlow, D.H., Hersen M. :一事例の実験デザイン.高木俊一郎,佐久間徹(),二瓶社.大阪.1988

7)  石倉隆:入門口座 私にもできるシングルケーススタディ1 シングルケーススタディの実際.PTジャーナル38551-5592004

8)   佐藤雅昭ら著:流れがわかる学会発表・論文作成How To  メディカルレビュー社p144-72009

9)ガー・レイノルズ著:プレゼンテーションzen デザイン ピアソン・エデュケーションp18-35.2010.

 

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